【書籍レビュー】新・面倒くさい経済で稼ぐ思考法

書籍レビュー

読むより聞いちゃった方が早い方はこちら(mp3)

【起】いつもの「面倒くさい」が、世界の扉を開ける鍵だった

「あー、面倒くさいな…」

きっと、あなたも日々の生活で、そう感じることがあるのではないでしょうか。仕事終わりにへとへとの体で夕飯の支度をする時。週末の掃除を先延ばしにしてしまう時。新しいスキルを身につけたいけれど、何から始めて良いか分からない時。その小さな、あるいは大きな「面倒くさい」という感覚は、私たち誰もが経験する、ごくありふれた感情です。私も以前は、この「面倒くさい」を単に乗り越えるべき障害だと考えていました。やる気を出して頑張るか、潔く諦めるか。そのどちらかだと思っていたのです。

しかし、そんな私の「面倒くさい」に対する認識を根底から覆し、目の前の世界が全く違って見えるようになった一冊の本があります。それが、『面倒くさい経済で稼ぐ思考法』です[見出しから推測]。本書が教えてくれたのは、「面倒くさい」という感情こそが、エネルギーや労力を節約しようとする人間の生物学的な本能に根ざした設計であり、この本能的な欲求を解消することに、とてつもない経済的な価値が生まれるという「面倒くさい原則」でした[見出しから推測]。そして、この原則が、現代、そして未来の経済を動かす強力な力になっているという洞察は、まさに目から鱗でした。

【承】暇なのに面倒くさい? 技術革新が描く「面倒くさい経済」の今と未来

本書はまず、現代社会における「暇」の驚くべき実態から語り始めます。私たちは「忙しい」と口にしがちですが、実際にはかつてないほど多くの「暇」を持っています。資本主義社会の発展による生産性の向上や、労働時間の短縮(19世紀の週60時間以上から現代の週40時間程度へ)がその背景にあります。しかし、スマートフォンの画面時間を見れば、多くの人が一日3~4時間をソーシャルメディアやゲームに費やしていることが分かります。これは、表面的には忙しく見えても、相当な「暇」が存在することを示唆しています。

さらに、AIとロボティクスの急速な発展は、この「暇」を将来さらに増加させると予測されています。オックスフォード大学の研究では、現在の仕事の約47%が今後10~20年で自動化される可能性があると示されています。自動運転車が普及すれば運転手は不要に。AIが法律文書を作成すれば弁護士の仕事の一部が自動化され。ロボットが工場や倉庫で働けば肉体労働者の需要が減少するかもしれません。これらの変化は、社会全体に膨大な「暇」をもたらす可能性を秘めています。

しかし、ここからが本書の核心であり、非常に興味深い点です。「暇」が増えても、現代人は「面倒くさい」という理由で多くの活動を避ける傾向があるのです。この「暇なのに面倒くさい」という矛盾した心理状態こそが、未来においても巨大なビジネスチャンスを生み出し続ける源泉となります。

過去の成功事例を見れば、この原則がよく理解できます。Netflixは、レンタルショップに行って借りたり返しに行ったりする「面倒くささ」をオンラインストリーミングで解消し、2億人以上の会員を獲得しました。Uberは、寒い夜にタクシーを捕まえられないという「面倒くささ」から生まれ、スマートフォン一つで配車できるサービスを提供しました。Amazon Primeは「買い物に行くのが面倒くさい」「配送料を計算するのが面倒くさい」を解決し、Spotifyは「音楽を探すのが面倒くさい」「プレイリストを作るのが面倒くさい」を解決しています。これらのビジネスは、顧客の障壁を低減し、決断を最小化し、即時満足を提供し、エネルギー保存の本能を尊重するという、「面倒くさい原則」に沿った要素を持っています。

AIとロボティクスがさらに進化した未来の「面倒くさい経済」では、どのようなビジネスが成功するのでしょうか。本書は、大きく二つのアプローチを示唆しています。

一つは、顧客が「面倒くさい」と感じるタスクを代わりに実行する「やってあげる」サービス代行ビジネスのさらなる拡大です。家事代行、食事配達、買い物代行、各種手続き代行などがこれにあたります。TaskRabbitのように日常的な雑務を外注できるプラットフォームや、Uber Eatsのような食事配達サービスは既に大きく成長していますが、スマートフォンの普及により「やってもらう」という行為が贅沢から身近な選択肢になったことで、今後もその需要は拡大するでしょう。これらのサービスは「あなたは何もせずとも良い、私たちがやります」という価値提案を行います。米国での調査では、食事配達を利用する理由として「怠惰や疲れ」が挙げられています。

もう一つは、顧客自身が目標を達成するのを支援する「手伝ってあげる」モチベーションとコーチングの産業ですこれは、学習や運動、片付けなど、本来は継続が「面倒くさい」と感じる目標達成のプロセスを、コミュニティやゲーム要素、金銭的インセンティブなどを活用して支援するものです。Duolingoは語学学習をゲーム化し、StickKやBeeminderはコミットメント契約を活用し、Stravaはソーシャル機能で運動継続を促していますこれらのプラットフォームやコミュニティは、(他者に見られていると頑張れる)や共有コミットメント(同じ目標に取り組む仲間)の力を活用し、個人の「面倒くさい」を克服する手助けをします。クラウドファンディングも、資金調達だけでなく、プロジェクトの実行に対するモチベーションや検証を提供するという点で、モチベーションのクラウドソーシングの一種と見なせます。

未来の「面倒くさい経済」は、技術進化と人間心理の深い理解が融合することで形作られていくのです。

【転】あなたの「面倒くさい」が、次のビジネスチャンスを生み出す具体的な方法

さて、本書の洞察を受けて、多くの人が「じゃあ、具体的にどうすれば、この『面倒くさい』から新しいビジネスやサービスを生み出せるのだろう?」と考えるはずです。本書は、そのための非常に実践的な思考法とフレームワークを提供してくれます。ここからは、その具体的なステップを掘り下げてみましょう。

出発点は、「真の摩擦ポイント」、すなわち顧客が本当に「面倒くさい」と感じている点を見つけ出すことです。これは、単に「もっと早くできれば良い」という表面的な願望ではなく、行動を阻害している心理的・物理的な障壁を特定することです。

摩擦ポイントを特定するための方法として、本書はいくつかのアプローチを提示しています。

自己観察

 自分自身の日常生活や仕事で「面倒くさい」と感じる瞬間を記録する。

顧客観察とインタビュー

 顧客の行動を注意深く観察し、インタビューを通じて彼らが直面している「面倒くさい」点を深く理解する。

競合の分析
 競合サービスがどのような「面倒くさい」を解決しようとしているのか、あるいは解決できていないのかを分析する。

カスタマージャーニーマッピング
 顧客がサービスを利用する全過程を可視化し、各ステップでの不満や障壁(摩擦ポイント)を特定する。オンラインショッピングを例に、検索、比較、決済、配送、返品といった各ステップをマッピングし、どこに「面倒くささ」があるかを探る。

ソーシャルリスニング
 ソーシャルメディアやレビューサイトで、顧客が不満や要望をどのように表現しているかを収集・分析する。特定の製品カテゴリに関するTwitterの投稿やAmazonレビューを分析し、共通の不満を見つける。

未来シナリオを描く
 3〜5年後の社会を想像し、そこで人々が直面する可能性のある「面倒くさい」を予測する。例えば、環境意識の高まりというトレンドから、環境に優しい製品を選びたいが、どれが良いか判断するのが「面倒くさい」という摩擦ポイントに気づき、それを解決するアプリを開発するというアイデアにつながったケースが紹介されています。

摩擦ポイントが見つかったら、次に価値提案を設計します。これは、「あなたの製品やサービスが、顧客のどのような『面倒くさい』問題をどのように解決し、どのようなベネフィットを提供し、なぜ競合と違うのか」を明確にすることです。例えば、フィットネスプラットフォームのPelotonは、「ジムに通う時間がない、モチベーションが続かない」という問題に対し、「自宅でプロのインストラクターによるライブおよびオンデマンドクラス」という解決策を提供し、「通勤時間の節約、柔軟なスケジュール、コミュニティのモチベーション」というベネフィットを提示、「トップクラスのインストラクター、高品質な機器、データ駆動のパフォーマンス追跡」で差別化を図っています。

さらに、この価値提案をどのように顧客に届け、収益を上げるかをビジネスモデルキャンバスのようなツールを使って具体的に設計します。顧客セグメント、チャネル、顧客関係、収益の流れ、主要リソース、主要活動、主要パートナー、コスト構造といった9つの要素を整理することで、ビジネスの全体像を明確にできます。

設計したビジネスモデルは、必ず検証と最適化が必要です。プロトタイプやMVP(実用最小限の製品)を迅速に開発し、実際の顧客からフィードバックを得る。A/Bテストで異なるアプローチの効果を比較したり、ユーザー行動データを詳細に分析したりすることで、設計を継続的に改善していきます。Netflixが視聴データを分析してコンテンツ制作やレコメンデーションを最適化している例が挙げられています。

本書では、様々な立場の人が「面倒くさい原則」をどのように活用しているかの具体的な事例が多数紹介されています。

忙しい会社員、田中さんの場合

 週60時間以上働き、2児の母でもある田中さんは、家事や食事の準備に週末を費やし、疲労や子供との時間の不足に悩んでいました。家事代行と食事配達サービスを導入したことで、週に約10時間の自由時間を取り戻し、子供と質の高い時間を過ごしたり、自己啓発に時間を充てたりできるようになりました。月に5万円の出費を「最高の投資」と感じています。これは、「やってあげる」サービス代行が、個人の生活の質を劇的に向上させる例です。

既存ビジネスの中村さんの場合

 会計ソフトウェア会社の中村さんは、顧客体験の「面倒くさい」を解消するため、ダッシュボードの再設計(頻繁に使う機能を前面に)、請求書作成プロセスの簡素化(12ステップから4ステップへ)、AIによる経費カテゴリの自動分類、複雑な税金計算の自動化などを実施しました。これにより、タスク完了時間が42%短縮され、新規ユーザーの継続率が28%向上しました。さらに、ユーザーの業種や利用パターンに基づいたパーソナライズ(ダッシュボードカスタマイズ、機能表示順序調整、リマインダー調整など)を導入し、顧客エンゲージメントと満足度を向上させています。

教育者、伊藤さんの場合

 プログラミング教育を提供する伊藤さんは、学習の「面倒くさい」を減らすため、長い講義を短いビデオモジュールに分割(マイクロラーニング)、テキスト・ビデオ・演習と多様な形式でコンテンツ提供(マルチモーダル学習)を実施しました。さらに、モチベーション維持のため、短時間で達成できる「クイックウィン」プロジェクト、バッジとポイントによるゲーミフィケーション、週間チャレンジでの進捗共有、学習バディシステムなどを導入。これにより、学習者の平均学習時間が大幅に増加し、中断率が減少しました。これは、「手伝ってあげる」モチベーション設計が、継続学習を促進する強力なツールとなる例です。

フリーランスのウェブデザイナー、佐々木さんの場合

 佐々木さんは、クライアントとのやり取りや管理業務の「面倒くさい」を解消するため、明確な5ステップのデザインプロセスを確立し、オンラインプロジェクト管理ツールを導入してクライアントがリアルタイムで進捗を確認できるようにしました。さらに、デザイン要件収集のための包括的なアンケート作成、フィードバック収集ツールの導入、オンライン決済の導入などで、クライアント体験を最適化しています。自身の創造的作業の効率化のためには、デザインテンプレート作成、特定の作業に集中する時間ブロックの設定(ディープワーク)、請求書発行や経費追跡の自動化、仮想アシスタントへの雑務委託などを実行。これにより、管理業務時間を削減し、創造的な作業時間を増やし、プロジェクト数を40%増加させることに成功しています。

これらの事例は、「面倒くさい原則」が特定の業界や個人だけでなく、あらゆる分野で適用可能であり、それを理解し活用することで、圧倒的な競争優位性を築き、自身の生産性や満足度も向上させられることを示しています。

【結】「面倒くさい」はあなたへの問いかけ。未来を創造する一歩を踏み出そう

本書を読み終えて感じるのは、「面倒くさい」という感情が決してネガティブなものではなく、むしろ私たち自身や顧客が抱える隠れたニーズ、そして解決されるべき課題を指し示すコンパスであるということです。技術がどれだけ進化しても、人間がエネルギーや労力を節約したいという本能は変わらないでしょう。AIやロボットが多くのタスクを自動化すれば、私たちはより高度な、あるいはこれまで気づかなかった種類の「面倒くさい」に直面するようになるかもしれません。その新しい「面倒くさい」を見つけ出し、解決することこそが、未来を稼ぐための鍵となるのです。

しかし、利便性の追求は諸刃の剣でもあります。過度な自動化は人間のスキルを低下させ、選択肢の多さは決断疲れを引き起こす可能性もあります。未来の「面倒くさい経済」においては、単に効率性を高めるだけでなく、技術を人間の能力を補完・強化する「人間中心の設計」がますます重要になります。ユーザーが技術の動作を理解できる透明性、自律的な操作の余地を残すデザイン、人間の創造性や共感性といった強みを活かす設計が求められます。

『面倒くさい経済で稼ぐ思考法』は、単なるビジネスの教科書ではありません。これは、私たち自身の内なる声、そして社会の変化を読み解くためのレンズを与えてくれる一冊です。あなたが次に「あー、面倒くさいな」と感じた時、それはもしかしたら、あなた自身が、あるいは誰かが、解決を求めている「摩擦ポイント」へのサインかもしれません。

この本を手にしたあなたは、もうそのサインを見逃すことはないでしょう。あなたの日常生活や仕事の中に潜む小さな「面倒くさい」に目を向け、なぜそれが「面倒くさい」のか、どうすれば解消できるのかを考えてみてください。本書で紹介されている摩擦ポイント特定の方法や、価値提案・ビジネスモデル設計のフレームワークは、その思考を具体的なアイデアに変換するための強力なツールとなります。そして、もしそのアイデアが誰かの役に立つと思ったら、小さなプロトタイプからでも検証を始めてみてください。

「面倒くさい」は、あなたへの問いかけです。その問いに真摯に向き合った時、未来を創造する扉が開き、あなた自身の新しい可能性、そして稼ぎ方への道が見えてくるはずです。

ぜひ、あなたの「面倒くさい」から始まる発見の旅に出てみてください。きっと、素晴らしい未来があなたを待っています。

コメント