チームを率いるあなたへ。
日々の仕事の中で、「もっと、このチームはできるはずなのに」と感じる瞬間はありませんか? 一人ひとりは能力も意欲もあるのに、どうもチームとして一体となり、期待するような爆発的な力を生み出せていない気がする。以前はチームに抱いていた「期待」が、いつの間にか「このくらいが限界か」という「失望」に変わりかけている。
そんな、もどかしい気持ちを抱えているのは、あなた一人ではありません。多くのチームが今、まさに同じような壁にぶつかっています。そして、その壁を乗り越え、チームに眠る未知なるポテンシャルを解き放つための旅に、これからあなたをご案内します。
なぜ、チームは「孤軍奮闘の悪循環」に陥るのか
私たちのチームが本来持っているはずの力が発揮されないのは、なぜでしょうか。それは、チーム内に「孤軍奮闘の悪循環」が潜んでいるからかもしれません。
想像してみてください。あなたがチームメンバーに対して、「もっと主体的に意見を言って欲しい」「良いアイデアじゃなくてもいいから、何か提案して欲しい」と働きかけたとします。あなたはチームの可能性を信じ、期待しているからです。しかし、返ってくるのは「特にありません」「賛成です」「次までに考えます」といった、どこか打っても響かないような反応ばかり。
最初は「どうして動いてくれないんだ」「やる気がないのか」と不満を感じるかもしれません。部下に対しては叱責したくなることも、同僚や上司に対しては心の中で愚痴をこぼすこともあるでしょう。そうするうちに、「周囲に頼るより、自分でやった方が早い」という結論に至り、結局一人で抱え込んで頑張ってしまう。
これが、「孤軍奮闘の悪循環」です。あなたは一人で頑張り、チームメンバーはますます受動的になる。お互いに「どうせ言っても無駄だ」「この人に期待しても仕方ない」という無言の諦めが生まれてしまう。そして、誰もがお互いに期待しなくなったチームから、良いパフォーマンスが生まれるはずがありません。皮肉なことに、もともと優秀でモチベーションの高い人ほど、このサイクルに陥りやすく、結果としてチームから孤立してしまうのです。
この悪循環は、チームの主体性や創造性をじわじわと奪い、私たちの内側に眠るポテンシャルを抑制してしまいます。あなたが本当に望むのは、一人で戦う世界ではなく、仲間と力を合わせてチームで成果を出す世界のはずです。そのためには、メンバーの「同調」や「謝罪」を求めるのではなく、一人ひとりの「その人らしさ」、すなわち個性あふれる「才能」が発揮される状態を目指さなくてはなりません。
では、どうすればこの悪循環を断ち切り、チームを魅力的な場に変えることができるのでしょうか。
その答えは、あなたが周囲に投げかける「問いかけ」の質を変えることにあります。

チームのポテンシャルを阻害する「現代病」
私たちが「孤軍奮闘の悪循環」に陥り、チームのポテンシャルが抑制されてしまう背景には、現代という時代の大きな変化があります。私たちは今、予測不能で変化の激しいVUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)と呼ばれる時代を生きています。かつてのように、明確な設計図に基づいて効率的に物事を進めることが常に最善とは限りません。
これまでの多くの組織や仕事のやり方は、いわば「ファクトリー型」の思考に基づいています。これは、目標を設定し、詳細な計画を立て、役割を分担して効率的に作業を分業していくスタイルです。製品の品質を均一に保ち、大量生産を行う工場のように、決まった手順を正確に、ミスなくこなすことが重視されます。このような環境では、個々の独自の発想よりも、全体のシステムに従うこと、与えられた役割を効率よくこなすことが求められました。人間もまた、この「判断の自動化」といった戦略に巧みに適応してきました。
しかし、イノベーションを生み出したり、前例のない課題に取り組んだりする現代の仕事では、この「ファクトリー型」の思考だけでは立ち行かなくなっています。むしろ、試行錯誤を繰り返し、予期せぬ出来事を受け入れ、手元にあるリソース(メンバーの個性やアイデア)を組み合わせて新しいものを生み出す「ワークショップ型」の思考や働き方が求められています。このスタイルでは、計画通りに進むことよりも、仕事の過程で生まれるメンバー間の対話や、異なる視点からの刺激が重要になります。
私たちのチームがポテンシャルを抑制されてしまうのは、この「ファクトリー型」から「ワークショップ型」への過渡期にあること、そして過去の成功体験や適応戦略が、現代の仕事においてはかえって足かせとなってしまうこと に起因する「4つの現代病」に冒されている可能性があるからです。
これらの現代病のメカニズムを理解することで、チームのポテンシャルを阻害している「ボトルネック」が見えてきます。
- 認識の固定化
長年の経験や成功体験から培われた、物事の見方や考え方が凝り固まってしまう状態です。ファクトリー型では効率化のための武器だった「判断の自動化」 が、ワークショップ型では新しい発想を阻害する「固定観念」となります。過去にうまくいったやり方に固執することは、変化する時代においては足かせになり得ます。 例:「このやり方が一番効率的だ」「このタイプの顧客にはこの方法で営業するのが当たり前だ」 - 関係性の固定化
チームメンバー同士がお互いを「この人はこういう人だ」と、役割や表面的な付き合いに基づいた限られた情報で判断し、関係性が深まらない状態です。ファクトリー型では分業のために必要最低限の関係性で十分でしたが、ワークショップ型で求められる、まだ結論が出ていない「生煮えの意見」を交わし、お互いの「見えない前提」を理解しようとする対話的な関係性が築けません。メンバーに対する「確証バイアス」 も関係性の固定化を助長します。 例:「あの部署の人はいつも非協力的だ」「あの若手は経験が浅いから、大したアイデアは出せないだろう」 - 衝動の枯渇
チームメンバーの内側から湧き上がる「こうしたい」「これを試したい」といった内発的な欲求(衝動)に蓋がされ、主体的な行動やこだわりを持った発想が抑圧されている状態です。ファクトリー型における「ミスをしないこと」を重視する減点主義 や、周囲と足並みを揃えさせる同調圧力 は、「逸脱の抑止」として働き、衝動を枯渇させます。結果として、仕事で創造的なエネルギーを発揮できなくなり、そのエネルギーを「仕事の外」で満たそうとします。 例:「こんなこと言ったら変に思われるかも」「どうせ却下されるだろうから、言わないでおこう」 - 目的の形骸化
「何のためにこれをやっているのか」という仕事の意義や、チーム、組織の存在目的が曖昧になり、手段が目的化してしまう状態です。ファクトリー型では、最初に立てた設計図に従って淡々と作業を進める「手段への没頭」 が効率を高めましたが、ワークショップ型では、自分たちで目的を発見し、その意義を感じ続けることが重要です。目的が形骸化すると、仕事に対する情熱やエネルギーが失われてしまいます。 例:「この業務は昔からやっているから」「言われたことだけやっていればいい」

これらの現代病がチームに蔓延することで、メンバーの「こだわり」が埋もれ、余計な「とらわれ」に縛られてしまう。結果として、チームは本来のポテンシャルを発揮できずに停滞してしまうのです。
ポテンシャル解放の鍵は「問いかけ」にあり
チームのポテンシャルを抑制する現代病を乗り越え、一人ひとりの隠れた才能やチーム独自の魅力を引き出すための「処方箋」 となるのが、他者への「問いかけ」の技術です。
「問いかけ」とは、単に情報を得るための「質問」とは一線を画します。それは、仕事の様々な場面で相手に質問を投げかけ、そこから「反応を促進すること」です。そして、その反応は、単なる記憶や知識の想起にとどまらず、相手の価値観を内省させたり、感情を刺激したりする、より深いものです。
問いかけの力は、チームに潜む「未知数」に光を当てる「スポットライト」 のようなものです。どのような角度で光を当てるかによって、相手の頭の中に浮かぶもの、引き出される反応は大きく変わります。うまく光を当てれば、メンバーの「衝動」をくすぐったり、「固定観念」を揺さぶったり、より深い「対話」を促進したりすることができます。
例として、ある人が「豊かな食事とは何か?」と尋ねられたとします。単に「何を食べるか?」という知識を問う質問ではなく、「自分にとって」という主語で「豊かさ」という価値観を問われることで、人は内省せざるを得なくなります。すぐに答えが出なくても、「これまで豊かだと感じた食事の思い出は?」のように問い方を変えれば、具体的なエピソードが引き出され、そこからその人の食に対する「こだわり」が見えてくるかもしれません。
問いかけはまた、サッカーやバスケットボールのようなチームスポーツにおける「パス」にたとえられます。あなたがどんなに優秀なプレイヤーでも、一人でボールを持ち続けていては、チームとして成長し、勝利することはできません。問いかけは、質問という形で相手に「ボール」を渡す行為です。ボールを受け取った相手は、そこで初めて自分の頭で考え、自分らしいプレイを試みることができるのです。良いチームには、必ず味方の才能を引き出すパスの上手い人がいます。
重要なのは、このパス(問いかけ)が相手にきちんと受け取られ、次に繋がる、つまり相手から「自分の意見」という反応が返ってくること、そしてその過程で相手が前向きな気持ちになれるような問いかけを意識することです。これは、相手の「個性」や「こだわり」に光を当てる問いかけであるべきであり、「相手の至らなさ」や「無能さ」に光を当て、「謝罪」に誘導するような問いかけであってはなりません。
問いかけの技術を磨くことは、単にコミュニケーションスキルを高める以上の意味を持ちます。それは、周囲の人々の魅力と才能を引き出し、一人では決して生み出せないチームとしての圧倒的なパフォーマンスを生み出す、現代において最も必要なスキルの一つと言えるでしょう。そしてそれは、あなた自身の評価にも繋がり、何より一人で頑張るよりも、ずっと仕事が楽しくなるはずです。

この「問いかけ」の技術を習得するための具体的なサイクルが、「見立てる」「組み立てる」「投げかける」という3つのステップです。次回以降で詳しく掘り下げますが、今回はこのサイクルの最初の2つのステップに焦点を当ててみましょう。
チームの現在地を知る技術:「見立てる」
「問いかけ」の旅を始めるにあたって、まず私たちが習得すべき最初のステップは、チームが今どのような状態にあるのか、その「現在地」を正確に把握する「見立てる」という作法です。これは、観察や考察を通じて、チームにとって何が「こだわり」であり、何が「とらわれ」なのか、そしてどのような「変化」が必要なのか を見定めるプロセスです。これは、次に投げかける質問を準備するための土台となります。
しかし、チームの状況を「見立てる」のは簡単なことではありません。特にミーティングのようなリアルタイムの場では、飛び交う情報量が膨大で、何をどう見れば良いのか、情報の取捨選択が困難になることがあります。まるでシャーロック・ホームズのように、些細な手がかりからチームの状況を読み解けたらどんなに便利でしょう? しかし、あらゆる情報に目を向けようとすると、情報過多で混乱し、重要なことを見落としてしまいます。
ここで役立つのが、観察のための「フィルター」や「ガイドライン」を持つことです。事前に「何を知りたいか」「どんな仮説を検証したいか」といった「問い」を頭に持っておく と、同じ状況を見ていても、自然と注目すべき点が見えてくるようになります。
具体的に、チームの「こだわり」や「とらわれ」を見つけ出すための観察の着眼点として、以下の3つが挙げられます。
- 何かを評価する発言
メンバーが他の人やアイデア、状況に対して評価を下す発言に耳を澄ませます。例えば、「あの店は良かった」「あのアイデアはイマイチだ」といった発言の「背後にある観点や価値観」を推察します。何を基準に「良い」「悪い」を判断しているのか? その価値観の中には、チームが大切にしている「こだわり」もあれば、凝り固まった「とらわれ」(特に人間関係における「確証バイアス」)が隠れている可能性もあります。 例:「この企画は効率が悪い」という評価の背後にある価値観は何か? → 「効率こそが最も重要である」という「こだわり」、あるいは「効率が悪いやり方は絶対悪だ」という「とらわれ」? - 未定義の頻出ワード
チームの会話の中で、当たり前のように繰り返し使われているけれど、実は具体的な定義が曖昧なままになっている言葉に注目します。専門用語や略語、独特な言い回しなどがこれにあたります。定義が曖昧なのに頻繁に使われている言葉は、チームにとって大切な「こだわり」の言葉であるか、あるいは意味が失われ「形骸化」した「とらわれ」になっているかのどちらかの可能性が高いです。 例:「イノベーション」「シナジー」「ユーザーファースト」「健康的な美しさ」など、チームによって意味が微妙に異なる可能性がある言葉。その言葉が、チームの活動を方向づける「こだわり」なのか、それとも思考停止を招く「マジックワード」 になっていないか? - 姿勢と相槌
言葉にならない、メンバーの非言語的な反応にも注意を払います。特に、何かを言いかけたけれど口を閉ざした、というような、「頭に浮かんだけれど、発せられなかった言葉」 や「衝動」が抑制されているサイン を探ります(衝動の枯渇)。会議の終盤で、決定事項に同意する際の頷きの深さや、少し妥協したような表情なども重要なヒントになります。 例:「うーん…まあ、大丈夫です」と言いながら、どこか歯切れが悪い、あるいは不満そうな表情をしているメンバー。

これらの着眼点からチームの現状を観察し、具体的な「こだわり」や「とらわれ」の仮説を立てます。
さらに、「見立て」の精度を高めるためには、単に現状を見るだけでなく、「理想の状態」「三角形モデル」「場の目的」(何を決める場なのか、どんな情報共有をするのかなど)と、その目的が達成された際に「見たい光景」(メンバーが活発に意見を交わしている、若手メンバーが積極的に発言している、懸念点が遠慮なく出ているなど)を事前に具体的に描いておくというアプローチです。
この「理想の状態」と、観察から見えてきた「現状」との間の「ギャップ」こそが、チームに必要な変化を示唆し、次に組み立てるべき「問いかけ」の大きな手がかりとなるのです。
目的に合わせた質問を設計する:「組み立てる」
チームの現状を「見立てる」ことで、何がボトルネックになっていて、どのような変化が必要かという仮説が見えてきました。問いかけのサイクルの次のステップは、この見立てに基づき、望ましい反応や変化を促すような質問を具体的に「組み立てる」ことです。
質問を組み立てる際には、闇雲に思いついたことを尋ねるのではなく、いくつかのポイントを押さえることで、その効果を格段に高めることができます。基本となるのは、以下の3つの手順です。
- 未知数を定める
「何を問うか」「何について考えて欲しいか」という、質問の中心となる「未知数」を設定します。これは、先ほどの「見立てる」で立てた仮説、つまり「チームが何にこだわっていて、何にとらわれているのか」「どんなギャップがあるのか」といった発見を手がかりに設定すると効果的です。 例えば、「マンネリを打破するためのリニューアル案」 のように、場の目的を未知数に置くこともできますし、「健康的な美しさとは何か?」 のように、チーム内で曖昧になっている「未定義の頻出ワード」 を未知数に設定し、チームの「こだわり」を深掘りしたり、「とらわれ」を揺さぶったりすることも有効です。 - 方向性を調整する
未知数が定まったら、質問がどちらの方向を向くのかを調整します。主な軸は「主語」と「時間」です。
主語: 「あなた」「チーム」「組織」「社会」など、誰(何)を主語にして考えてもらうかを決めます。主語を変えるだけで、質問から受ける印象や、引き出される発想のレベル感が大きく変わります。例えば、メンバーの視点が個人や手段に閉じてしまっていると感じたら、主語を「チーム」や「組織」に引き上げることで、より俯瞰的な視点からの思考を促すことができます。逆に、チームが問題の原因を外部に求めて他責的になっている場合は、あえて主語を「あなた」にして、自分ごととして捉え直してもらう機会を作ることも必要です。ただし、「あなたはどう変わるべきか?」のような高圧的な聞き方にならないよう、自分自身の「立場」や「芸風」 も考慮し、相手の個性や挑戦を尊重するような表現を工夫しましょう。
時間: 質問の焦点を「過去」「現在」「未来」のどこに置くかを調整します。例えば、過去の経験を振り返ってもらったり、現状を分析してもらったり、将来のビジョンを描いてもらったり、といった具合です(提供ソースのこの部分の詳細は少ないですが、時間軸は思考を方向づける重要な要素です)。 - 制約をかける
質問に「制約」を加えることで、相手の思考の探索範囲を絞り込み、答えを考えやすくします。制約が全くないと、何を答えていいか分からず、意見が散漫になる可能性があります。有効なテクニックは以下の4つです。
- トピックを限定する
考えるべき話題を具体的に絞ります。例:「リモートワークを推進するために、社内規定についてどう思いますか?」「ツール支援については?」 これは、チームの固定観念の「外側」にあるトピックにあえて光を当てることで、発想を揺さぶるためにも使えます。 - 形容詞を加える
質問に「良い」「新しい」「楽しい」「豊かな」といった価値を表す形容詞を付け加えます。これにより、質問に新しいニュアンスが生まれ、相手の内省や対話を促すことができます。ポジティブな形容詞とネガティブな形容詞を対で使うのも効果的です。例:「リモートワークを楽しくするために、どんな社内規定が必要だと思いますか?」 - 範囲を指定する
回答の範囲や形式を指定します。例えば、「3つ挙げるとしたら」「箇条書きで」といった指定です(提供ソースに詳細な例は少ないですが、可能性として挙げられています)。 - 答え方を指定する
どのような形式で答えて欲しいかを指定します。例えば、「数値で表現してください」「比喩にたとえるなら」「ストーリーで語ってください」といった方法です。比喩を使ったり、数値化したり することで、思考に遊び心が生まれたり、より客観的に捉え直したりする効果が期待できます。
- トピックを限定する

これらの手順を踏まえて質問を組み立てることは、最初は時間がかかり、大変に感じるかもしれません。まるで初めてレシピを見ながら料理をするように、一つ一つの工程を丁寧に行う必要があります。しかし、これを繰り返すことで、次第にチームの状況を見ただけで、どのような未知数を設定し、どの方向に、どんな制約をかけたら良いのかが瞬時に判断できるようになっていきます。
問いかけの技術は、準備した質問を「投げかける」ことで初めてその力を発揮します。そして、投げかけた後の相手の反応を「見立て」、次の質問を「組み立てる」。このサイクルを回し続けることで、チームの「とらわれ」を打破し、「こだわり」を耕し、眠っていたポテンシャルを解き放つことができるのです。
次回は、組み立てた質問をいかに効果的に相手に届けるか、そしてその後のフォローアップについて掘り下げていきます。
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